我が国では明治以降、公務への資格任用制による人材供給を基本としてきた。地方公共団体においても地方公務員法のもと試験による採用と採用後の研修等による長期間をかけた人材育成が人材政策の基本となっている。各団体では人材育成基本指針と研修に関する基本指針を定め人材育成に取り組んでいるほか、近年では能力と実績に基づく人事管理の徹底を目指した人事評価制度の導入も義務付けられた。しかし地方公務員の志願者数は一貫して減少している一方で、近年の合格者数は増加傾向にあることから地方公務員試験の競争率は年々減少傾向にあり、優秀な職員の確保が次第に困難になっている状況がある。
地方公共団体における業務には以前にも増して専門知識や分野や組織を横断する構想力が必要とされるものが多くなっているが、一方で公務員試験では幅広い人材に門戸を広げることを目的に法律や経済といった専門知識を問うことなく民間企業と同様の知能試験のみで採否を決定し、専門知識は採用後の研修やOJTによって習得させるという形態が増加しており、現場では様々な課題も存在する。中途採用も今や一般的となり、IT分野に代表されるように専門能力を有する人材を外部に求める団体も多くなっているが、待遇や人事処遇面での課題もある。ITの進化と外部委託や指定管理など行政サービス形態の多様化で公務員が担うべき業務が専門知識や企画力、調整力、さらには共感力を必要とする業務に集約されつつあることからも、資格任用によって自治体ごとに新卒者を採用し長期間をかけて育成するという人材供給方法が変革を求められる時期に来ていることを実感する。
第32次地方制度調査会の中間報告においても、各団体の枠を超えた人材の活用や行政と民間が互いに人材を囲み込むのではなく副業を含めた柔軟な働き方ができるようにするなど、専門知識や専門能力を有する人材を自治体や企業がシェアしていく必要性が盛り込まれているが、これらはいずれも現在の地方公務員制度に大きな変革を求めるものである。
もとより地域社会という公共空間とそこでの暮らしを支えるのは行政のみでなく企業、地域団体、大学、個人等を含む社会の構成員協働によるべきであり今後、その必要性は益々高まるであろう。昨今の人事政策においてはジョブ型と呼ばれる雇用形態が注目されるが、地域社会を支えるために必要な業務(公務)を誰にどのように遂行させるかも構成員全てでシェアすべき大きな課題である。長い年月をかけて特定の団体で育成する職業公務員のみが公務を担うという固定観念を脱し、様々な職種、様々な地域から公務に適時参入し、必要なミッションを遂行後は他分野にステップアップできるような社会制度の整備が求められる。これからの公務員制度には、その時々に求められる公務に必要とされる人材を適時に充てるためにはどのような制度が必要か、いわば公共人材政策とも言える視点が必要である。
[2020年 研究会発表をもとに]