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兵庫県政の混乱に見る地方自治制度の盲点

兵庫県政の混乱は、公益通報に該当する可能性のある文書についてその真偽を客観的に審議することなく通報者を処分し、結果的に人命を失うという取り返しのつかない結果を招いたことが真の問題であるが、いつの間にか通報内容にある知事のパワハラ等の真偽そのものが問題の本質であるかのごとく取り違えられ、県政と社会の混乱はもはや取り返しのつかない段階に至っている。

 

西宮市で監査委員を拝命して監査という実務に関わるようになったこともあり、改めて地方自治体のガバナンスを考える日々が続いている。二元代表制を採用している我が国の地方自治制度は、議会と首長によるチェックアンドバランスの関係を基本として成り立っている。首長を補佐する補助機関として競争試験によって任命された公務員組織に加え、二元代表制を補完するチェック機関として首長から独立した監査委員が置かれているが、これも議会同意による首長任命であり、基本的には市民が選んだ首長と議会への全幅の信頼をもとに成り立っている制度と言える。

 

選挙によって選ばれた首長や議員、議会同意によって首長から任命される副市町村長や監査委員などを解任するための直接請求制度(リコール)の要件は厳しく、ICTを活用した方策も未だ採用されていないため、ひとたび選んだ首長や議員をその能力や資質が欠如していたからといって住民コントロールによって解職することは事実上、不可能に近い。

 

一方で地方自治体のマネジメントは首長に専属的に委ねられており、チェック機関としての議会、首長から独立した監査委員が存在するものの、首長が専任する幅広い行政マネジメント全てをチェックすることは難しい。議会は検査権に加え不信任決議ができるものの、これは首長の解散権とバーターの権限となっており政治的判断をせざるを得ないものであるほか、監査委員もそのリソースから財務を中心とした監査が中心とならざるを得ず全ての行政判断を客観的に監査し得る体制にはない。近年都道府県と政令市に法制化された内部統制制度も首長自身による統制を想定している。つまり、住民が選挙で選んだ首長が行政判断や組織マネジメントに関する能力が欠如していた場合のことは、現行制度では想定していない。加えて首長の補助機関である公務員組織も近年では定数減に加えて中途退職や応募者低迷による人材難が続いていており、その組織力は低下している。

 

言ってみれば我が国の地方自治制度は、選挙という民主主義の基本システムを最大に尊重し、選ばれた首長や議員はそれなりの能力と資質を備えた人間であること、それを補佐する公務員組織が一定の能力を備えていることを所与の前提としているものと考えられる。一方で昨今では、選挙における投票率の低下をはじめとする国民の政治不信や投票行動の単略化、メディアの報道姿勢、政治行政に関わろうとする人材の資質の低下や政党の人材育成能力の欠如など、民主主義に基づく制度を取り巻く環境は残念ながら絶望的に近い状況にあると思う。

 

住民サービスを担う地方自治体のマネジメントは、国民の生命や財産の維持にも関わる極めて重要な職務である。現在の地方自治制度には大きな盲点があることを、兵庫県の現状は示しているのではないだろうか。